一覧に戻る

 
 

岩本 真一

マルクス工業化論の射程
―ミシンと衣服産業への言及をもとに―


March, 2010

 
     
   
     
 

Abstract

 
 
 本稿では、ミシンと衣服産業に関するカール・マルクスの言説を取り上げ、マルクスの工業化論の多様性を検討した。
 経済社会に対する産業革命の影響は実に様々なものが存在した。
これらのうち、本稿では、
 (1)機械製と手製との相克
 (2)生産体制と「同一資本の指揮下」
の2点を中心に検討した。すなわち、手製の品目が大量で安価な機械製品に駆逐されるとマルクスがみたかどうかという点、そして、旧来から存続した問屋制のようなフレキシブルな生産体制を工場制が壊滅させるとマルクスがみたかどうかという点を検討した。いずれも、駆逐や壊滅についてマルクスは限定的な意味を有すにとどまっており、工場と工場制度との違いを重視している点が分かった。
 この2点を受け、「実体的用語の再検討」では、工場と工場制という二つの用語の違いに経済学が注目すべき点を強調した。また、「衣服産業史としてのマルクスの着眼点」において、産業革命が一経済社会内部における労働問題に影響を与えたこと、とくに児童労働と女性労働との問題が深刻化した点を振り返り、マルクスの叙述も紹介した。最後に「格差としての世界分業」として、このような児童労働や女性労働の問題は一国単位で生じるものではなく、世界分業の一環として発生する点を強調した。閉塞感の強い近年の経済学の再生はこの観点から行なうべきである。


 
 
 
Copyright (C) 2009 , Graduate School of Economics, Osaka City University, All rights reserved.