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杉田 菜穂

戦時期日本社会政策論の一素描
−大河内一男・海野幸徳・沼佐隆次−


March, 2010

 
     
   
     
 

Abstract

 
 
 日本社会政策論史を振り返ったとき,1930年代に登場する大河内理論の影響は決定的である。社会政策の本質は「労働力の保全培養」にあり,それが「労働力」を対象とするものだとする大河内社会政策論は,日本の社会政策が社会行政から厚生行政へ,いいかえれば戦時体制へと時代の流れが激変する時期に,「厚生」=(国民)生活の問題をめぐって「社会政策」と「社会事業」,それに「福利施設」を関係づけるという展開をみせた。
 本稿では第一に,その戦時下における大河内の「生活」問題をめぐる見解を明らかにする。その上で,同時期に「社会事業」の理論化に熱心であった海野幸徳,社会行政から厚生行政へという政策史について「社会政策が社会事業を包み込む」ように展開したという見方を示した沼佐隆次の見解を取り上げている。
 社会政策の概念規定をめぐっては,戦前に「社会事業」,戦中には「厚生事業」,戦後に至っては「社会福祉」と呼ばれることになる領域の存在がある種の混乱をもたらしてきた。そこで,1930年代まで遡って大河内の学説,さらにはそれに対する海野と沼佐の見解を取り上げることにより,その問題の起点に迫っている。

 
 
 
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