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高橋 玲

フィジー社会における人種間格差の政治経済史
−土地所有制度をめぐるインド系住民と フィジー系住民の対立−


March, 2008

 
     
   
     
 

Abstract

 
 
本稿では、フィジーのイギリス植民地期(1874年直轄領化)から独立(1970年)以降に至るまでの政治史を概観し、フィジー人とフィジー在住インド人の間の土地所有制度上の格差が、両エスニックグループの間に如何なる軋轢を生むに至ったのかを考察する。軋轢の表出の段階は、政治史との関わりにおいて主として三つの時期に区分されうる。第二次世界大戦以前の時期においては、両エスニックグループは、政治的にも経済的にも殆ど交わる機会をもたなかったために、軋轢はまだ潜在的なものであった。しかし、大戦後から1970年の独立前夜にかけて、土地所有制度の改革を巡り両者が政治的に対立することになった。独立以降は、両者の軋轢は顕在化し、フィジー系の同盟党とインド系の国民連邦党の政治的闘争という型式をとることになる。しかし近年では、高等教育を受けたフィジー人高級官僚や、フィジー人都市生活者などの新たな階層が形成され、インド人/フィジー人という、エスニックグループに基づく従来の二項対立図式が崩れてきている。例えば、1987年に行われた第五回総選挙では、労働組合を母体として1985年に結成された労働党と国民連邦党の連合が過半数の議席を得た。エスニックグループの差異を超えた新たな階層が、とくに都市部において形成され、彼らは近代的な価値を共有している。しかしながら依然として、フィジー系住人とインド系住人との土地所有に関する格差は解消されておらず、それは数度のクーデターという形で表出している。

 
 
 
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