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水野 敦子・久保 彰宏

タイにおけるミャンマー人労働者の賃金決定要因


February, 2008

 
     
   
     
 

Abstract

 
 
   ミャンマー(ビルマ)から,隣接するタイへの労働力流出は1990年代初頭より拡大し,現在,多数の出稼ぎミャンマー人非熟練労働者がタイの都市雑業部門や労働集約的産業の低賃金部門にも参入している状況にある。
   ミャンマーからタイへ流出する出稼ぎ労働者は,国境地域に居住する少数民族の割合が高い。国境地域は,かつての反政府民族組織の拠点であり,現在でもなお軍事政権との衝突が継続している地域も存在している。ミャンマーにおいて,少数民族への迫害と民族差別は依然として存在している状況にあると言えよう。従って,ミャンマー国内の民族差別が,タイの出稼ぎミャンマー人労働市場に影響を与えていることが十分に予想されるのである。
   本稿は,タイ国内労働市場の底辺(低賃金層)に位置付けられる出稼ぎミャンマー人労働市場について考察し,いかなる要素が彼らの賃金水準に影響を及ぼしているのかを検証するものである。分析に際し,2005年7月にタイ国内三地域(バンコク,チェンマイ,およびメソット)で,ミャンマー人労働者を対象に質問票方式により独自に実施した調査結果を利用する。@学歴や仕事の経験といった人的資本,Aタイ政府による合法的身分(労働許可証)の有無,B個人能力とは関連の薄い性別や出身民族など,これら各要素を反映させた賃金関数を推定し,賃金構造の解明を試みる。
   分析から得られた主要な結論は以下とおりである。ミャンマー人出稼ぎ労働市場では,学歴,タイ国内での就労経験(出稼ぎ期間)など人的資本を表す要素に対しては,あまり評価が与えられていない。また,就労が合法であるか不法であるかは,賃金水準とは関連が無い。一方で,年齢は賃金に影響を及ぼしており,賃金決定の際に年齢が考慮されている可能性が強い。しかし,個人の能力とは本来関係のない性別・民族が賃金に対し有意にマイナスの影響を与えており,女性や少数民族に対する差別が存在する。

 
 
 
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