基礎・経済統計〔後期1部,2部開講〕                                                                中川 満

 

A)講義の主題と目標

 本年度から国民経済計算入門と経済統計概論が統合され,基礎・経済統計となった.両者がそれぞれ半期を費やして教えてきたことを,全部あわせて半期で教えるのは不可能である.従って,国民経済計算のややこしい細部(資産の減価償却の計算法,資産勘定とフロー勘定の接合,物価調整の方式,帰属計算)や統計学の推定・検定の大部分を落とすしかない.後者は,統計解析論の授業で線形回帰の枠組みのなかで説明することになる.

 国民経済計算のパートは全体の1/3ほどをしめる.ここでは,国民経済計算体系(SNA)の大枠を説明する.この中で重視したいのは,フロー概念とストック概念の区別,所得と移転の区別(年金問題などの議論でこれらを混同しているものがよく見られる),名目値と実質値の区別である.

統計学のパートは全体の2/3ほどをしめる.ここでは,数理統計学の基礎を学習する.

経済理論の検証については,実験経済学や較正(Calibration)などの新たな方法が提唱されているが,現在のところ統計学的推論に多くを依存している.従って,統計学は経済学理解に不可欠である.また,統計学を修得する際に使用する数学的操作は,保険理論,ファイナンス理論,ゲーム理論等を修得する際にも役に立つであろう.また,一般の社会生活においても世論調査,視聴率調査,選挙の出口調査など統計学利用の場は極めて広範,かつ,身近であるから,経済学を離れても,その理解は意味があろう.

統計学の修得には,ふたつの側面があると考えられる.統計操作の方法の修得と操作の背景にある理論の修得である.本講義では後者に焦点をあてる.半期という時間的制約と,理論的背景を理解していないとただの暗記となり応用力が付かない点からである.このように目的を設定すると,最小限の数学(微分,積分,Σ計算)利用は避けられない.受講者の忍耐を申し訳ないがお願いする.なお,前者に関しては適宜,スライドを使って説明するつもりである.

B)講義方法

教科書に沿って講義する.ただし,高校時代にすでに知っているとみられる事項は飛ばす.なお,授業には平方根を求めることができる電卓を持参してほしい.

C)成績評価法

定期試験による.試験の際には電卓の持ち込みを許可する.教科書の練習問題を定期試験の問題に含める予定である.

D)講義計画

1.SNA<教科書A

2.データの整理<教科書B

3.確率(2.1,2.2を除く)<教科書B

4.確率変数とその分布<教科書B

5.標本分布<教科書B

6.母数の推定<教科書B

7.仮説検定の基礎<教科書B

ただし,*付きの節は除く.ただし,国家公務員試験等に出題される分野は講義する.

E)教材

<教科書>

A]武野 秀樹『GDPとは何か経済統計の見方・考え方中央経済社 2004年

B]森棟公夫『統計学入門(第2版)』新世社 1999年

<参考文献>

http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/93snapamph/top.html

D.ロウントリー『新・涙なしの統計学』(加納悟訳)新世社(初歩から統計学を学ぶのに最適,自習できるのでテキストとしては使わないが,大変わかりやすい本)

藤田岳彦監修,黒住英司著『穴埋め式 統計数理 らくらくワークブック』講談社サイエンティフィク(We all love exercises!)

木下滋,土居英二,森博美「統計ガイドブック(第2版)」大月書店 1998年(経済データの収集法が載っていて便利)

経済学雑誌別冊講義資料にもこの授業に関連した資料を載せる予定です.

<ホームページ>

授業で使ったスライド,参考文献や授業の補足説明などは,http://ramsey.econ.osaka-cu.ac.jp/~Nakagawa/index.htmlhttp://homepage3.nifty.com/freshairに掲載するので,適宜チェックすること.講義のスライドはできるだけ予めどちらかにアップロードする予定である.また,教科書については,著者が訂正・データ・補足説明をhttp://www.econ.kyoto-u.ac.jp/~morimune/で公開している.これも参照されたい.